『何事も最初が肝心』とは、しばしば言われることです。一見、平行に並んでいるように見える2本の直線も、片方の角度が1度傾いていたら、2本の直線の間隔は先へ行けば行くほど広がってきてしまいます。講師である私自身、平行に並んで進んでいたつもりが、気がついたら全く違うところに来てしまっていた、ということを何度も何度も経験しました。私自身の経験、そして、これまでの指導経験から、ピアノのレッスンにおける導入の重要性は、どんなに強調してもしすぎることはないと確信しています。
導入期には、ピアノを演奏するにあたって必要な基本的動作、楽譜の読み方が中心のレッスン、いわゆる基礎が中心となります。そして、この基礎をどれだけしっかりと習得したかということが、その後のピアノとの付き合い方に大きな影響を及ぼすのです。
私自身は、楽譜こそ読めたものの(とは言っても表面的なもので全く読めていないに等しいものでしたが)、音階、アルペジオ、半音階といったピアノの基本的動作の習得をさぼったために、後々、大変なコンプレックスを抱え込む破目に陥りました。特に、音大入学以降は、基礎という言葉に敏感に反応し、自分の目に付いた情報には必ず目を通し、片っ端から試してみるということを、繰り返していたように思います。
その結果わかったことは、ピアノで基礎と呼ばれているものには、明確な定義が存在していないということでした。明確な定義が存在していないため、一口に基礎と言っても、実に様々な基礎があります。様々な基礎があるということは、それだけ選択の幅が広いということですから、それらの中から自分にあっていると感じたものを習得していくのが賢明と思われますが、それらの基礎を習得するにあたって、ひとつだけ確認しておいた方が良いのではないかと思うことがあります。
それは、最終目標をどのあたりに設定した基礎なのか、ということです。
平均的な一戸建ての基礎と、50階建てのビルディングの基礎では、全く異なります。ですから、中級程度の作品が弾けるようになれば良しとしている基礎と、プロフェッショナルなピアニストでさえ技巧的に難曲として扱っている曲を弾ききることを前提とした基礎では、全く異なるものになるのではないでしょうか。
平均的な一戸建ての基礎の上に、50階建てのビルディングを建てようとしたら、耐震偽装どころの騒ぎではありません。反対に、平均的な一戸建てを立てるために、50階建てのビルディング用の基礎を作る人はいないと思います。 基礎という言葉だけをうのみにせず、ご自分の最終目標がどのようなものなのかをしっかりと把握した上で、ご自分の最終目標に見合った基礎を学んでいかれることが重要ではないでしょうか。
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