ステージ上で演奏することを前提としてピアノを練習されている方の多くが抱える悩み、それが"あがる"ということではないでしょうか。
どうやら、世の中にはあがる人とあがらない人の2種類の人種がいるように感じます。
ですから、あがる人はどのような方策をとっても、おそらく"あがる"という現象から逃れることは難しいのではないでしょうか。
アルゲリッチがなぜあのような猛烈なスピードで演奏するかと言えば、"あがる"からだそうで、速くならいくらでも弾けるが、ゆっくりだと緊張のあまり弾けなくなるそうです。
内田光子さんも、若い頃に雑誌のインタビューで、ステージでは緊張し、さらには足が震えることもあり、それも計算にいれて練習をすると答えていました。
私が学生時代に師事した先生は、邦人ピアニストとして著名な方で、テクニシャンとして知られておりましたが、この先生も大変緊張すると言っておられました。
私の友人は、とある室内楽のコンサートでこの先生の譜めくりをお手伝いした際に、先生の指先がプルプル震えていたところを目撃したと語っておりました。
このように、著名なピアニストであっても"あがる"ということと格闘している人はたくさんいるわけですから、自分があがる人だからと言って、悲観的になる必要は何もないと思います。
むしろ、"あがる"ということを当たり前のこととして受け入れ、"あがる"ということと自然なお付き合いをしていくことが、結果としては"あがる"ということを克服するための一番の近道ではないかと思います。
人前で演奏するということを何度か経験すると、次第に自分が"あがる"とどのような状態になるかということがわかってきます。
私の場合、自宅やレッスンでは音階や半音階を難なく弾けるのですが、本番になると指がぐしゃぐしゃになり、必ず失敗をするというパターンが見えてきました。
そこで、ステージ上で音階や半音階を弾く際に、いったい自分がどのような状態になっているのかを分析し、姿勢を変えたり、手のフォームを変えるなどといったことを、ステージ上で試行錯誤することによって、少しずつ音階や半音階の失敗が減っていきました。
「また、あがってしまった!どうしよう」と考えるのではなく、「あがってきたな。よし、いつもどおりいつもどおり」と考えることによって、"あがる"ということと自然なお付き合いができるようになっていくのではないかと思います。
私は極度のあがり症なので(みんなはステージ上で弾いている私の姿を見て、そんな風には見えないと言いますが)、これを何とかしようと、舞台袖で長時間ストレッチをしてみたり、本番直前まで長いすの上で寝転んだり、ガムをかんでみたり、ハーブティーを飲んでみたり(さすがにお酒には手を出しませんでしたが)、と無駄な努力をたくさんしましたが、最終的にわかったことは『真面目に練習をするしかないんだ』ということでした。
練習不足が不安を生み、それが"あがる"という形で表面化してくるのではないかと思います。
自分自身に対して嘘をつくことはできませんから、そうなってくるとやはり不安が残らなくなるまでひたすら練習をするしかないという、ごく当たり前な結論になってしまいます。
ちなみに、上記のようなあがり克服法を追及した挙句、一度だけ全くあがらずに演奏をするという体験をしましたが、この時の演奏は完全なノーミスだったにも関わらず、音楽的魅力がゼロという本末転倒なものとなってしまいました。
"あがる"ということは、ステージ上で演奏を完成させるために必要な、一種のスパイスなのかもしれません。
これ以降、私は"あがる"ということに対して全くどうでもよくなってしまい、最近では寒い時期でも手袋すらしなくなってしまいました。
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